「あと少し、もう少し」(瀬尾まいこ)①

描かれているのは悩み多き中学生の一生懸命な姿

「あと少し、もう少し」
(瀬尾まいこ)新潮文庫

陸上部の名物顧問が異動となり、
代わりにやってきたのは
頼りない美術教師。
部長の桝井は、
中学最後の駅伝大会に向けて
メンバーを募るが、
集まったのは
元いじめられっ子、
不良、吹奏楽部員等々。
寄せ集めの6人の練習が始まり…。

一言で言えば
中学校駅伝を描いた青春小説です。
でも専門的な視点から
描かれているのではありません。
駅伝はあくまでも作品の舞台に過ぎず、
ここに描かれているのは
悩み多き中学生の
一生懸命な姿なのです。
中学駅伝はメンバー6人が
3kmの距離をリレーする競技。
作品そのものが
1区から6区と分かれていて、
1区間ずつ、その走者が語り手となる
異色の作品構造となっています。

1区:設楽亀吉
いじめられっ子で
自分に自信が持てない。
桝井に支えられて
陸上部を続けてきたが、
駅伝メンバーに不良の大田が
加わることに不安を感じる。
一方、大田は設楽に
一目置いているという…。

2区:大田
(この選手だけ
フルネームが登場しない)
不良。
できないことが明らかになる前に
投げ出すことの繰り返し。
桝井の誘いに乗って
駅伝メンバーとなる。
ところが大会前日の壮行会、
彼は体育館を飛び出す…。

3区:仲田真二郎
(通称:ジロー)
頼まれたことは
すべて引き受けてしまう。
そのため、駅伝にも参加。
そこには自分と合わない渡部が。
しかし、壮行式を飛び出した大田に
意見した彼に、渡部は理解を示す…。

4区:渡部孝一
吹奏楽部員。
両親のいない家庭環境から、
孤高な外面を演じてきた。
桝井と俊介からの
駅伝メンバー加入の誘いを
断り続けている。
そんなある日、陸上部顧問上原が
彼を勧誘しに来る…。

5区:河合俊介
陸上部2年生。
先輩桝井に憧れ、
ぐんぐん調子を上げている。
彼には桝井の不調が気がかり…。

6区:桝井日向
陸上部部長。
周囲に対して常に温かい。
駅伝の勝利を願い、
6人のメンバーを揃えるが、
彼自身の調子は下がる一方。
人格者に見られる彼も、
やはり悩みを抱えていた…。

6人の選手たちが
等身大で迫って来るような
個性を持っています。
そして360頁全編にわたって
漲るスピード感。
6人のランナーたちの思いは、
互いに交錯しながらも、
爽やかな風のように
吹き抜けていきます。
陸上競技に興味のある中学生に、
そして陸上競技を
まったく知らない中学生に、
強く薦めたい一冊です。

(2019.5.31)

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